サドベリー・バレー・スクールの40周年記念カンファレンスに参加して。
~教育もステキに選びたい~
(湘南サドベリースクールスタッフ(2008年当時)木村由紀)

このおなかに生命を授かって、私は考えました。「コンピューターに足し算や引き算をさせるのは簡単だった。でもロボットを歩かせるためのプログラムを作るのは難しかった。そうか、子供には体全部をめいっぱい使って遊んでもらおう。それが一番子どもの脳を発達させるだろう。」子ども達のプリスクールには迷わず、里山保育をしている園を選びました。そこで出会った先生方、先輩ママ達の素晴らしかったこと。自然を大切にする育児との幸せな出会いでした。

「何かを与えれば、子ども達を管理するのは楽なのよ。でもね、そこをぐっとこらえて、子どもが自分で何かを見つけて動き出すまで待つ。そうするとね、本物の遊びが始まるの。子ども達にはできれば外で、豊かな発想を許してくれる自然物を相手に遊んでほしい。これに対して人工物は、どうしても作り手の意思が使い方を促してしまう。もちろんそれぞれの良さがあるけどね。」

その園の先生たちは子どもたちが自ら育つ力を信じて接してくれていました。子ども達の時間を守ってくれていました。

長男が年長組みになると、「この園のように、子どもの自発性や創造性を大切にしてくれる、小学校はないのかな?」と思うようになりました。1997年にNHKで放送された、『ETV特集アメリカ教育改革の挑戦第2回 自由の中の全人教育 サドベリーバレー校の実践から』をビデオで見たのはそんな時でした。

番組の中の子ども達は思い思いに遊び、学んでいました。仲間との会話を大切にし、困ったことは自分達で話し合っていました。自然体でした。

 

「あった!!」

私たち夫婦のこれまでの人生の全てが、サドベリーに繋がっていました。「これだ、サドベリーの教育理念で私たちの4人の子どもを育てよう!」私たちは興奮して、サドベリーと繋がる全ての人に感謝しました。

 

日本で、サドベリー。

 湘南サドベリースクールは2008年4月に、3家族5人でスタートしました。開校から6ヶ月、子ども達は毎日を遊びと学びの中で過ごしています。

 

サドベリー・バレー・スクール40周年ワークショップ

2008年7月12日。サドベリー・バレー・スクールの40周年を記念した4日間のワークショップがはじまりました。サドベリー・バレー・スクールをモデルとした学校は、近年世界中で数を伸ばしていて、湘南サドベリースクールはその1つです。ドイツ、イスラエル、オランダなどなど、世界中のサドベリー・スクールからファウンダーやスタッフを務める人たちが集まり、その子どもや裏方の人を合わせると、参加者は250人ほどになりましたでしょうか。

湘南サドベリースクールからは、2家族が参加しました。7歳を筆頭に7人の子どもたち。世界のサドベリー・スクールに通う子ども達と交流することができました。素晴らしい体験でした。

日本から参加した男の子が、早速クワガタムシを捕まえました。「ワゥ、ビードル!!?」うえ~、とか、こわーい、という顔で見る子ども達。それがだんだん積極的になってきて、「えさを探そう」「きのこは食べないよ」。中には「It feels sad now…」と気の毒に感じる子もいました。

 

 

 

 

クワガタムシを捕まえた男の子は得意になって、建物の中に入っていきました。高校生ぐらいの女の子たちにクワガタムシを見せると・・・。なにやら困っている様子です。小さな女の子が助けに入って通訳してくれました。

「ここではね、外のものを建物の中に持ち込んではいけないことになってるの。それにね、この学校で生き物を捕まえたら、10秒以内に逃がしてあげなきゃいけないというルールがあるのよ。」

カンファレンスに来ている子ども達は、サドベリー・スクールでどのようにルールが作られるかを体験的に理解している子達です。その男の子はすぐに建物の外に出て行きました。そして戻ってくると、「逃がしてきたよ」「ありがとう」。

高校生ぐらいの女の子達は、通訳をした小さな女の子に「助かったわ、ありがとう。あなた、日本語が話せるのね。」と話しかけました。小さな女の子は、「どういたしまして。私、英語と日本語が話せるのよ。あなたはどう?」「私は英語だけよ。」「そう。日本語のことで困ったらまた声をかけてね。」「ありがとう、あなたが両方話せると知って良かったわ。」

年の差を考えるとちょっと面白いやりとりですね。サドベリー・バレー・スクールでは、4歳から19歳の子どもたちが年齢ミックスの状態で互いに対等に学びあっているのです。

こんなこともありました。昼食の時に同じテーブルについた十代の男の子と話していた時のことです。彼は私のbroken Englishを適切な英文に変換しながら、私のわかる英単語を選びながら話をしてくれました。私は彼の言った「complicate」という単語の意味がわかりませんでした。彼に「complicateって単語の意味を聞くからちょっと待ってね。」と言って、通訳をお願いしていた方に「complicate」の意味を尋ねると、その方は親切心で、彼に直接「何を話していたの?」と尋ねました。すると彼は、「彼女はcomplicateという単語の意味だけを知りたがっているんですよ。」と答えました。

サドベリー・スクールでスタッフは、求められたことだけをサポートします。子ども達の自発的、自主的な学びを邪魔しないように注意を払います。逆に言えば、スタッフは子どもが自らの学びにサポートを求めた時、求められただけのサポートを全力でしなければなりません。サドベリー・バレー・スクールに入校して一年になる7歳の女の子がきっぱりと言いました。「学校に子どもがいる時にはいつでも、スタッフは子どもの要求に応えなくちゃいけないのよ。あなたはただaskするだけでいいの。」

結局私は、その男の子のサドベリーな姿勢に感動すると共に、通訳さんに甘えるわけにはいかなくなりました。そして日本文化に興味津々なその男の子と、一時間半も自力で英会話を続けたのでした。

このように、子ども達が堂々と話す姿には感動してしまいます。安心して自分の意見を言える場所で、彼らが育っているのを感じるからです。

スクールキャミソール(Tシャツではなく、こげ茶の可愛いキャミでした。)の背中に、こんな言葉を載せている学校もありました。

 

Because…

Creativity cant be scheduled. 創造性は計画されない。

People flourish in freedom. 人々は自由の中で活躍する。

Democracy must be practiced. 民主主義は実践を必要とする。

 

一人の小さな女の子が、芝生の校庭で楽しそうに飛んだりはねたりしていました。少し年上の男の子が彼女のまねっこをしました。彼女はおもしろがって、「次はこう♪」と、ポーズを取りました。彼はまたそれをまねました。彼女は嬉しくなって、それから約一時間!、次々と新しいポーズを考えては校庭を跳ね回りました。まねっこ遊びに参加した子は、多い時で5人。遊びと学びの生まれた瞬間に立ち会えたことに、私はわくわくしました。まさにCreativity cant be scheduled

 

 

 

 

「子ども達の頭を、オープンにしておきたいの。」

そう話してくれたのは、ホームステイ先のお母さん。

 

サドベリー・バレー・スクールのような、生徒の選択の自由に基づいた学校は、知識への高速道路が整備された、情報革新後の社会だからこそ注目されているのだと感じています。

 

サドベリー教育の特徴とゴール

自由な遊びが時に未知の探求であり、時に創造的活動であることは、今や多くの人が知っています。脳科学や人間の発達について研究が進んでいますが、教育の分野もまたしかりです。

世界に目を向けると19世紀の終わりごろから、伝統的な教授法にしばられない、新しい教育理論が数多く生まれ実践されてきました。中でもとびきりユニークで、「遊びの価値」を訴えて止まない学校がサドベリー・バレー・スクールでしょう。アメリカ有数の学園都市、マサチューセッツ州ボストンにあり、そのユニークな教育哲学は、教育界だけでなく、ビジネス、心理学などの分野で、世界的に注目されています。

サドベリー・スクールの特徴を一言で言うと、『自由』と『自治』です。カリキュラムやテストやクラス分けはなく、子ども達は自分の好きなことにそれぞれ『自由』に取り組んでいます。湘南サドベリースクールでも、子ども達はピタゴラスイッチを作ったり、庭の梅で梅ジャムを作ったり、ゲームをしたり、おしゃべりを楽しんだり、花の種類を数えたり、鬼ごっこしたりといろいろです。

また自分と同じように、相手にも自由があるので、自由と自由がぶつかる時、子ども達は自ら問題の解決に取り組みます。それがサドベリーの『自治』です。サドベリーはデモクラティックスクールなので、子ども達は学校運営にも関わります。

「カリキュラムがないなんて、そんなの学校と呼べるの?社会に出てやっていけるの?」 サドベリーを知った最初の頃は私も不安に思いました。

卒業生を対象にした追跡調査によると、約8割が希望する大学や短大、専門学校に進学しています。卒業後も、自分の大好きなことをおいかけて、それぞれの分野で活躍しています。専門職に就いたりアーティストになる人が比較的多く、彼らの人生に対する満足感、幸せ度は、高い数値を示しているのが特徴です。

私がサドベリーを愛して止まないのは、スタッフの、「子どもを一人の人として尊敬し、信じぬく姿勢」と、子ども達に求められる、「自分の教育には自分で責任を持つ」という厳しさです。

子ども達が一人の人、小さな人として認められ、自らの魂の声を聞きながら育ち、やりたいことを見つけて幸せに暮らすのであれば、私たちにとってこれ以上嬉しいことはありません。天職への階段。それがサドベリーの教育理念を選んだ私たちのゴールです。

日本でも教育の選択肢が広がろうとしています。この学校に興味をもたれた方、いっしょに学校を作りませんか?また、こんな教育を求めているお子さんがいる方が知り合いにおられましたら、是非紹介してくださいね。

 

参考図書:

☆「自由な学びが見えてきた―サドベリー・レクチャーズ」

ダニエル・グリンバーグ著 大沼安史訳 緑風出版

☆「世界一素敵な学校―サドベリー・バレー物語」

ダニエルグリーンバーグ (), 大沼安史 (翻訳) 緑風出版

☆「自分を生きる学校」デモクラティック・スクールを考える会 編

せせらぎ出版